賃上げを「利益減」で終わらせない――最低賃金1,136円と省力化投資の考え方

目指すべきは、賃金と物価がともに上がる経済
日本経済が目指しているのは、単に物価だけが上がる状態ではありません。
日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%を「物価安定の目標」としています。物価が安定的に上昇し、それを上回って賃金が伸びれば、実質賃金はプラスになります。働く人の購買力が高まり、消費が増え、企業の売上と投資につながる。これが理想的な経済の好循環です。
政府の「日本成長戦略」でも、2029年度までに実質賃金を年1%程度上昇させる、つまり物価上昇率を年1%程度上回る賃金上昇を社会に定着させる方向が示されています。物価上昇率が2%なら、名目賃金はおおむね3%程度伸びる状態が一つの目安になります。
しかし、この好循環には欠かせない条件があります。
企業、とりわけ中小企業に、賃上げを続けられるだけの利益が残ることです。
茨城県最低賃金は1,136円へ
2026年10月18日、茨城県の最低賃金は、時間額1,074円から1,136円へ引き上げられました。引上げ幅は62円です。
最低賃金で月160時間勤務する従業員の場合、単純計算した賃金増加額は次のようになります。
| 対象人数 | 1か月の増加額 | 1年間の増加額 |
|---|---|---|
| 1人 | 9,920円 | 119,040円 |
| 5人 | 49,600円 | 595,200円 |
| 10人 | 99,200円 | 1,190,400円 |
| 20人 | 198,400円 | 2,380,800円 |
これは基本賃金だけの試算です。企業側が負担する社会保険料、残業単価の上昇、最低賃金を上回る社員との賃金バランスまで考えると、実際の負担はさらに大きくなる可能性があります。
もちろん、賃上げ自体は必要です。人材確保や定着、社員の生活向上のためにも避けて通れません。
問題は、価格、生産性、付加価値が変わらないまま、人件費だけが増えることです。
例えば対象者が10人なら、基本賃金だけで年間約119万円の増加です。何も対策を取らなければ、この金額は原則として企業の利益を押し下げます。営業利益が年間500万円の企業なら、単純計算で約24%に相当するインパクトです。
県では、一定の要件を満たす中小企業に対し、正規雇用者1人4万円、非正規雇用者1人2万円を支給する「いばらき賃上げ支援金」などを用意しています。
ただし、支援金は一時的な負担軽減策です。来年以降も賃金を払い続ける原資は、企業自身が生み出さなければなりません。
必要なのは、待つことではなく「稼ぐ力」を高めること
賃上げ分を吸収する方法は、単純な人員削減ではありません。
必要なのは、次の三つを組み合わせることです。
- 無駄な作業や残業を減らす
- 同じ人数で生み出せる付加価値を増やす
- 自社の価値を顧客へ伝え、適正な価格で販売する
2026年版中小企業白書も、持続的な賃上げには、価格転嫁に加え、成長投資による製品・サービスの高付加価値化や、生産性向上によって「稼ぐ力」を強化する必要があると指摘しています。
例えば、製造設備を更新するだけでなく、その前後にある見積、製造指示、検査記録、日報、報告書、保全管理まで見直す。設備には設備の役割を、ITには情報をつなぐ役割を、AIには判断や文書作成を支援する役割を持たせる。
こうした全体設計が、生産性向上の成否を分けます。
省力化投資補助金、第9回公募へ
その手段の一つが「中小企業省力化投資補助金」です。
一般型では、個々の現場や事業内容に合わせて、設備とシステムを組み合わせた省力化投資が支援されます。補助上限は従業員規模により異なり、通常は最大8,000万円、大幅賃上げ特例では最大1億円です。
第9回公募は、現時点で次の日程が予定されています。
- 公募開始:2026年11月上旬
- 申請受付開始:2026年12月上旬
- 申請締切:2026年12月下旬
申請にはGビズIDプライムが必要で、取得には一定の期間がかかります。未取得の企業は、早めの準備が必要です。
補助金は「設備を安く買う制度」ではない
ここで注意したいのは、補助金の対象になりそうな設備から検討を始めないことです。
先に確認すべきなのは、自社のどこで時間、利益、能力を失っているかです。
- 残業が集中している工程はどこか
- 設備停止の原因は何か
- 見積や検査記録に何時間かかっているか
- 熟練者にしかできない判断は何か
- 新しい設備を導入した後、誰が改善を続けるのか
この分析がないまま設備を導入すると、一部の工程だけが速くなり、前後の仕事が新しいボトルネックになることがあります。
補助金は、設備購入のためではなく、「賃上げを続けても利益が残る事業構造」をつくるために使うべきです。
第9回公募に向け、今から準備する
伴走パートナーズでは、省力化投資を検討する中小企業に対し、次の支援を行います。
- 省力化対象業務の棚卸し
- 設備・IT・AIの役割分担
- 投資効果と回収期間の試算
- 導入後の標準手順・判断基準の整備
- 現場リーダーへのスキル移転
- 第9回公募に向けた事業計画の土台づくり
私たちが重視するのは、設備やシステムを導入して終わることではありません。
外部の専門家やベンダーが離れた後も、社内の担当者が効果を測り、改善を続けられる状態をつくることです。
賃上げは、一時的な経営負担ではなく、自社の仕事を見直し、より付加価値の高い会社へ変わるきっかけにもなります。
最低賃金への対応を終えた今こそ、次の問いを考える時です。
増えた人件費を、どの仕事の改善と、どの付加価値で取り戻すのか。
第9回公募を視野に、省力化の対象や投資効果を整理したい経営者の方は、伴走パートナーズの無料相談をご利用ください。
設備、IT、AI、人材育成を切り離さず、利益が残り、社内に改善能力が残る計画を一緒に考えます。
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