売上はあるのに、なぜ現金が残らないのか――9月は「価格」と「支払条件」を同時に見直す

原材料費、エネルギー費、物流費、そして人件費が上昇している。それでも取引先との関係を気にして、価格を据え置いたまま受注を続けている。
このような中小企業は、決して少なくありません。
さらに注意したいのが、「価格は改定できたものの、入金までの期間が長い」という問題です。売上が増えていても、原材料費や賃金を先に支払い、売上代金を受け取るまで何か月も待つ取引が多ければ、資金繰りはむしろ厳しくなります。
2026年9月は、単なる値上げ交渉の月ではありません。
価格、支払期日、決済方法、前払金や中間金まで含め、「利益と現金が残る取引」へ転換する機会です。
「価格交渉促進月間」は、いつ始まったのか
政府は2021年9月から、毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と位置付けています。
背景にあるのは、原材料費やエネルギー価格、労務費などが上昇しても、立場の弱い受注企業が発注企業へ価格改定を申し出にくく、増加したコストを自社で抱え込んでしまう問題です。
月間の狙いは、一時的に値上げを促すことだけではありません。発注企業と受注企業が定期的に話し合い、コスト上昇分を適切に価格へ反映する取引慣行を定着させることです。
月間終了後には、受注側の中小企業を対象として、実際に価格交渉が行われたか、どの程度価格転嫁できたか、支払条件に問題がないかを確認する調査が行われます。
つまり、「交渉を呼びかけて終わり」ではありません。調査によって取引実態を可視化し、発注企業側の行動変化を促すところまでが制度の一部です。
2026年9月は「支払条件」が大きなテーマになる
今回、特に重要なのが支払条件の見直しです。
公正取引委員会と中小企業庁は2026年9月2日、約束手形の利用廃止を踏まえ、サプライチェーン全体で支払いを適正化するよう、事業者団体などへ要請しました。
多くの金融機関は、2026年9月30日を手形・小切手の最終振出期限に設定しています。さらに、2026年1月に施行された取適法では、対象取引における手形払いが禁止されました。
電子記録債権などへ切り替えれば、それだけで解決するわけでもありません。物品などの受領から60日以内に代金の満額を受け取れない決済条件は、原則として認められません。
また、2027年4月からは、取適法の対象外を含む製造委託などについても、受領後60日以内の支払いを求める「支払告示」が施行されます。長期間を要する大型機器の製造などでは、前払い・期中払いの比率を高めることも求められています。
単価だけを上げても、経営は改善しない
たとえば、1,000万円の案件を受注したとします。
材料や外注費、賃金として700万円を先に支払い、代金の回収が数か月後であれば、その間の資金は受注企業が用意しなければなりません。
受注が2件、3件と重なれば、売上は伸びているのに手元資金が減ることもあります。これは典型的な「増収・資金不足」です。
したがって、価格交渉では次の項目を一体で確認する必要があります。
- 労務費・材料費・物流費は、いくら増えたのか
- 顧客別・製品別に必要な粗利を確保できているか
- 見積価格が過去の経験だけで決まっていないか
- 納品から入金まで何日かかっているか
- 手形から電子決済へ移行した後も、実質的な支払サイトが長くないか
- 長納期案件で、着手金や中間金を設定できないか
- 少量、短納期、特急対応などの追加負担を価格へ反映しているか
省力化やAI導入によって原価を下げても、不採算な価格と不利な支払条件が残っていれば、利益も現金も十分には増えません。
価格交渉は「お願い」ではなく、事業継続の協議である
価格交渉というと、取引先へ一方的に値上げをお願いする場面を想像しがちです。
しかし、本来の交渉はそれだけではありません。
安定供給を続けること。品質を維持すること。必要な人財を確保し、技術を次世代へ継承すること。短納期や仕様変更に対応できる体制を守ること。
これらには、相応の利益が必要です。
「原価が上がったので値上げしてください」だけでは、顧客には負担増として受け取られます。一方で、「この価格と条件でなければ、将来にわたる品質・納期・供給体制を維持できない」と、数字と事業上の価値を示せれば、経営課題として協議できます。
交渉に必要なのは、強い言葉ではありません。
自社の原価と採算を把握し、顧客に提供している価値を言語化し、継続可能な条件を具体的に提示する準備です。
9月に確認したい五つの質問
経営者の方は、次の質問に答えられるでしょうか。
- 売上上位10社について、顧客別の粗利を把握していますか。
- 前回の価格改定後、労務費・材料費・物流費はいくら上昇しましたか。
- 赤字、または目標粗利を下回ったまま継続している取引はありませんか。
- 納品から現金回収までの日数を、顧客別に把握していますか。
- 営業担当者によって、価格交渉の説明内容に差が出ていませんか。
一つでも答えにくい項目があれば、いきなり顧客へ交渉を申し入れる前に、社内の情報を整理する必要があります。
伴走パートナーズが支援できること
伴走パートナーズでは、単に「値上げしてください」と助言するのではなく、経営者や営業担当者と一緒に、交渉できる根拠と仕組みをつくります。
- 顧客別・製品別採算の可視化
- 原価上昇額と必要な価格改定率の試算
- 支払サイト、決済方法、前払・期中払条件の棚卸し
- 顧客価値を踏まえた価格改定資料の作成
- 顧客から想定される反論の整理
- 営業担当者との交渉ロールプレイ
- AIを使った原価資料・説明文作成方法の社内移転
- 交渉後の粗利・資金繰り改善効果の測定
最終的な目的は、コンサルタントがいなくても、自社で採算を確認し、自社の言葉で取引条件を協議できる状態をつくることです。
売上ではなく、「利益と現金が残る受注」へ
価格を据え置くことが、取引先との信頼を守るとは限りません。
無理な条件を受け入れ続け、ある日突然、供給や品質を維持できなくなる方が、顧客にとっても大きなリスクです。
2026年9月は、価格だけでなく支払条件を見直す転換点です。
「どの取引から確認すればよいか分からない」「価格改定の根拠を数字にできない」「取引先への説明方法に不安がある」という場合は、まず一度、現状を整理してみませんか。
伴走パートナーズでは、初回無料相談を実施しています。売上上位の取引先、現在の価格、原価上昇、支払条件など、分かる範囲の情報から課題を一緒に確認します。
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